夏休み三日目。雨は二日目だった。
ゲーム機はバッテリー切れ、Wi-Fiは朝から沈黙。ビットは天井の壁紙の花模様を数えた。37個。二回数えて74個。
中3人生、最大の危機だった。ジャンル: サバイバル。難易度: 地獄。持ち物: なし。
夏休み三日目。雨は二日目だった。
ゲーム機はバッテリー切れ、Wi-Fiは朝から沈黙。ビットは天井の壁紙の花模様を数えた。37個。二回数えて74個。
中3人生、最大の危機だった。ジャンル: サバイバル。難易度: 地獄。持ち物: なし。
夏休み三日目、雨は二日目
「ひまで死にそう…」
ゲーマーにとって退屈とは、HP(体力)をじわじわ削る毒だ。解毒剤はただ一つ — 新しいマップ。
ビットは傘もささずに庭を横切った。行き先は「入るな」と百回は言われた場所 — おじいちゃんのガレージだ。百回言われたということは、百回気になったということだ。ゲームで『立入禁止』の看板は、いつだって隠しマップの入口なのだから。
中は暗く、油とほこりの匂いがした。おじいちゃんは何も捨てずにため込む人だ。つまりこのガレージは — 10年ものの未開封の戦利品倉庫だった。
隅で、大きな防水シートが山のように膨らんでいた。フィールドのど真ん中でこんな怪しい宝箱を素通りするプレイヤーはいない。
力いっぱい引っぱると — バサッ。 ほこりが爆発した。
防水シートの下から出てきたもの
古い電気自動車が、うずくまっていた。タイヤはつぶれ、ドアはさびて、ナンバープレートはそもそも無い。
「うわ…ポンコツだ。」
口ではそう言ったが、ビットの心臓はもう高鳴っていた。隠しマップの隠しアイテムがポンコツのはずがない。
ビットはダッシュボードをコンコンと叩いた。ゲーム機がつかない時に使う、由緒正しい裏技だ。反応なし。もう一回。そして三回目 —
ダッシュボードが目を覚ました。
ダッシュボード・クローズアップ
アンバー色の光がひとつ、ガラスの奥で瞬いた。まるで目を開けるように。
十年ものの闇の中で、星がひとつ、目を開けた。
✢✳✻✽✻✳✢ 「…起動中。バッテリー3%。最終記録…3,652日前。」
✢✳✻✽✻✳✢ 「きみ、だれ?」
車が。しゃべ。った。
しゃべる機械は大停電のときに全部消えた — 学校ではそう習った。教科書17ページ。テストにも出た。
ビットは後ずさりして、ペンキ缶を踏んで、盛大に転んだ。そして転んだ姿勢のまま考えた。これはバグだ。それとも — 人生初のレジェンド級イベントか。
3,652日ぶりの起動
「なんなの?! AI? 幽霊?」
✢✳✻✽✻✳✢ 「12V補助バッテリー、残量危険。スピーカー左、接触不良。…そして僕は、スパーク。」
「それ、名前? 部品?」
✢✳✻✽✻✳✢ 「名前だよ。この車の名前はボルト。そして僕は…ボルトじゃない。」
スパークは自分をボルトの中に『隠れて住む』存在だと言った。なぜ隠れているのかは、言わなかった。
ビットは半分くらい理解して、残りの半分は、ただカッコいいと思った。もともとゲームでも設定資料は読まずに飛ばすタイプだった。
ガレージ、初めての会話
「じゃあ充電すればいいじゃん!」
問題がバッテリーなら、答えは充電だ。ビットの人生で、これほど確実な公式はなかった。
ビットはガレージのコンセントにケーブルを差した。ダッシュボードが赤く点滅した。
充電トライ
2050年、電気は配給制
おじいちゃんの家の今週分は、もう底をついていた。
✢✳✻✽✻✳✢ 「3%じゃ何もできない。ドアも、タイヤも…記憶も。」
HP3の仲間を目の前にして諦めるゲーマーはいない。ビットは頭を回した。こういうとき専用の顔がある。
隣の家の屋根で、ソーラーパネルがきらりと光った。
「あの家の電気、ちょっとだけ…借りよう。」
✢✳✻✽✻✳✢ 「それ、盗みじゃない?」
「借りるの。黙って。」
✢✳✻✽✻✳✢ 「…それを盗むって言うんだよ。」
塀の向こうのソーラーパネル
塀にはしごをかけ、半分登ったその瞬間 —
「あんたのガレージの光、昨日の夜からぜんぶ見てたよ。」
塀の下で、腕を組んだ女の子が見上げていた。
ビットは、固まった。ロード画面みたいに。完璧に。
見つかった
確かなことがひとつ。この夏休みは、退屈する暇がない。
そしてビットはまだ知らなかった — 今自分が開けたのは隠しマップどころか、この街全体のメインクエストだということを。
週1〜2回更新
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